労災保険給付の内容について
労働者が、業務または通勤が原因で負傷したり、病気にかかって療養を必要とするとき、療養補償給付(業務災害の場合)または療養給付(通勤災害の場合)が支給されます。
療養(補償)給付には、・療養の給付 と ・療養の費用の支給 とがあります。
療養の給付
労災病院や指定医療機関・薬局等(指定医療機関等のこと)で、無料で治療や薬剤の支給等を受けられます。(これを「現物給付」といいます。)
療養の費用の支給
近くに指定医療機関等が無い等の理由で、指定医療機関等以外の医療機関や薬局等で療養を受けた場合に、その療養にかかった費用を支給するものです。(これを「現金給付」といいます。)
給付の対象となる範囲や期間はどちらも同じです。
給付は、治療費・入院料・移送費など通常療養のために必要なものが含まれ、傷病が治ゆ(症状固定)し、療養を必要としなくなるまで行われます。
(請求に関する時効)
療養の給付については現物給付であることから、請求権の時効は問題となりませんが、療養の費用は、費用の支出が確定した日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅しますので注意が必要です。
「治ゆ」とは
労災保険における「治ゆ」とは、身体の諸器官・組織が、健康時の状態に完全に回復した状態のみをいうのではなく、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療(※1)を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態(※2)をいいます。これを「症状固定の状態」といいます。
(※1)労災保険の療養の範囲(基本的には健康保険に準拠しています)として認められた範囲の事をいいます。なので、実験段階や研究的過程にあるような治療方法は、ここにいう医療には含まれません。
(※2)その傷病の症状の回復・改善が期待できなくなった状態の事をいいます。
「治ゆ」の例
例① 切創もしくは割創の創面がゆ着した場合または骨折で骨ゆ合した場合であって、たとえ疼痛などの症状が残っていても、その症状が安定した状態になり、その後の療養を継続しても改善が期待できなくなった時
例② 骨ゆ合後の機能回復療法として、理学療法を行っている場合に、治療施行時には運動障害がある程度改善されるが、数日経過すると元の状態に戻るという経過が一定期間にわたってみられる時
例③ 頭部外傷が治った後においても外傷性てんかんが残る場合があり、この時治療によってそのてんかん発作を完全に制御できない場合であっても、その症状が安定し、その後の療養を継続してもそれ以上てんかん発作の抑制が期待できなくなった時
例④ 外傷性頭蓋内出血に対する治療後、片麻痺の状態が残っても、その症状が安定し、その後の療養を継続しても改善が期待できなくなった時
例⑤ 腰部捻挫による腰痛症の急性症状は消退したが、疼痛などの慢性症状が持続している場合であっても、その症状が安定し、その後の療養を継続しても改善が期待できなくなった時
「再発」したら・・?
傷病がいったん症状固定と認められた後に再び発症し、次のいずれの要件も満たす場合には、「再発」として再び療養(補償)給付を受けることが出来ます。
① その症状の悪化が、当初の業務上または通勤による傷病と相当因果関係があると認められる事
② 症状固定の時の状態からみて、明らかに症状が悪化している事
③ 療養を行えば、その症状の改善が期待できると医学的に認められる事
なお、脊髄損傷、頭頸部外傷症候群など、慢性肝炎などの傷病に罹患(りかん)した方に対しては、治ゆ(症状固定)後においても、後遺症状が変化したり、後遺障害に付随する疾病を発生させる恐れがあるので、予防その他の保健上の措置として、診察・保健指導・保健のための薬剤の支給などを行う「アフターケア」を実施しています。この「アフターケア」は、都道府県労働局長が交付する「健康管理手帳」を労災指定、医療リハビリテーションセンター、総合せき損センターおよび多くの労災指定医療機関に提示する事により、無料で受けることが出来ます。
労働者が、業務又は通勤が原因となった負傷や疾病による療養のために労働することが出来ず、そのために賃金を受けていないとき、第4日目から休業補償給付(業務災害の場合)または休業給付(通勤災害の場合)が支給されます。
給付の内容
① 業務上の事由又は通勤による負傷や疾病による療養のため、②労働する事が出来ないため、③賃金を受けていない・・という、3要件を満たす場合に、その第4日目から休業(補償)給付と休業特別支給金が支給されます。
休業(補償)給付=給付基礎日額の60% × 休業日数
休業特別支給金 =給付基礎日額の20% × 休業日数
(請求に関する時効)
休業(補償)給付は、療養のため労働する事が出来ない為賃金を受けない日ごとに請求権が発生します。その翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅しますので注意が必要です。
業務または通勤が原因となった負傷や疾病の療養開始後1年6か月を経過した日またはその日以後、次の要件に該当するときに、傷病補償年金(業務災害の場合)または傷病年金(通勤災害の場合)が支給されます。
要件
①その負傷または疾病が治っていないこと
②その負傷または疾病による障害の程度が傷病等級に該当すること
給付の内容
傷病等級に応じて傷病(補償)年金、傷病特別支給金および傷病特別年金が支給されます。
傷病(補償)年金と休業(補償)給付
傷病(補償)年金が支給される場合には、療養(補償)給付は引き続き支給されますが、休業(補償)給付は支給されません。
手続き
傷病(補償)年金の支給・不支給の決定は、所轄の労働基準監督署長の職権によって行われますので、諸手続きはありませんが、療養開始後1年6か月を経過しても傷病が治っていない時は、その後1か月以内に「傷病の状態等に関する届」という書類の提出が必要になります。また、療養開始後1年6か月を経過しても傷病(補償)年金の支給要件を満たしていない場合は、毎年1月分の休業(補償)給付を請求する際に「傷病の状態等に関する報告書」を併せて提出する必要があります。
傷病等級が第1級または第2級の服胸部臓器、神経系統・精神の障害があり、現に介護を受けている方は、介護(補償)給付を受給することが出来ます。この給付を受けるためには、別途請求書類が必要です。
業務または通勤が原因となった負傷や疾病が「治ゆ」(症状固定)と認められたときに、身体に一定の障害が残った場合には障害補償給付(業務災害の場合)または障害給付(通勤災害の場合)が支給されます。(現金給付です。)
一定の障害とは?
◆疼痛・知覚異常や運動麻痺などの神経症状 ◆器質的障害 ◆機能障害 など、これらの障害が「障害等級表」に掲げられている障害に該当すると認められる場合に、その程度に応じて支給されます。
給付の内容・・・年金給付と一時金給付の2通り
障害等級第1級から第7級に該当するとき・・・年金
障害(補償)年金・障害特別支給金・障害特別年金
障害等級第8級から第14級に該当するとき・・・一時金
障害(補償)一時金・障害特別支給金・障害特別一時金
年金の支払月
障害(補償)年金は、支給要件に該当することとなった月の翌月分から支給されます。
毎年2・4・6・8・10・12月の6期に、それぞれの2か月分が支払われます。
(請求に関する時効)
障害(補償)給付は、傷病が治った日の翌日から5年を経過すると、時効により請求権が消滅しますので、注意が必要です。
障害(補償)年金前払い一時金について
障害(補償)年金を受給することとなった方は、1回に限り、年金の前払いを受けることが出来ます。
給付の内容
前払い一時金の額は、障害等級に応じて定められている一定額の中から、希望するものを選択できます。なお、前払い一時金が支給されると、傷害(補償)年金は、各月分(1年を経過した以降の分は年5%の単利で割り引いた額)の合計額が、前払い一時金の額に達するまでの間は支給停止されます。
障害(補償)年金差額一時金について(万一亡くなられた場合)
障害(補償)年金の受給権者が死亡した時、すでに支給された障害(補償)年金と障害(補償)年金前払い一時金の合計額が、障害等級に応じて定められている一定額に満たない場合には、遺族に対して障害(補償)年金差額一時金が支給されます。
遺族とは
(1)労働者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた配偶者(※)・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹
(※)婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含みます。
(2)において同じ
(2)(1)に該当しない配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹
給付の内容
障害等級に応じて定められている一定額から、すでに支給された障害(補償)年金と障害(補償)年金前払い一時金の合計額を差し引いた額です。障害特別年金についても、傷害(補償)年金と同様に差額一時金制度があります。
社会復帰促進等事業について
労災保険では、保険給付の他に被災労働者の円滑な社会復帰の促進や遺族を含めた援護などを図る為に社会復帰促進等事業が実施されています。
障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者のうち、障害等級・傷病等級が第1級の方のすべてと、第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有している方が、現に介護を受けている場合、介護保障給付(業務災害の場合)または介護給付(通勤災害の場合)が支給されます。
支給の要件
(1)一定の障害の状態に該当する事
介護(補償)給付は、傷害の状態に応じ、常時介護を要する状態と随時介護を要する状態に区分されます。
該当する方の具体的な障害の状態 | |
常時介護 | ①精神神経・胸腹部臓器に障害を残し、常時介護を要する状態に該当する方(障害等級第1級の3.4号・傷病等級第1級1.2号) ②・両目が失明するとともに、傷害または傷病等級第1級、第2級の障害を有する方 ・両上肢および両下肢が亡失または用廃の状態にある方 など、①と同等度の介護を要する状態である方 |
随時介護 | ①精神神経・胸腹部臓器に障害を残し、随時介護を要する状態に該当する方(障害等級第2級2号の2・2号の3・傷病等級第2級1.2号)②障害等級第1級または傷病等級第1級に該当する方で、常時介護を要する状態ではない方 |
(2)現に介護を受けていること
民間の有料の介護サービスなどや、親族または友人・知人により、現に介護を受けていることが必要です。
(3)病院または診療所に入所していないこと(※)
(4)老人保健施設、障害者支援施設(生活介護を受けている場合に限る)、特別養護老人ホームまたは原子爆弾被爆者特別養護ホームに入所していないこと(※)
(※)これらの施設に入所している間は、施設において十分な介護サービスが提供されているものと考えられることから、支給対象とはなりません。
(請求に関する時効)
介護(保障)給付は、介護を受けた月の翌月の1日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅しますので注意が必要です。
業務または通勤が原因で亡くなった労働者の遺族に対して、遺族補償給付(業務災害の場合)または遺族給付(通勤災害の場合)が支給されます。また、葬祭を行った遺族などに対して、葬祭料(業務災害の場合)または葬祭給付(通勤災害の場合)が支給されます。
遺族 (補償)年金について
受給資格者(受給する資格を有する遺族)のうち、最先順位の方(受給権者)に対して支給されます。
被災労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹ですが、妻以外の遺族については、被災労働者の死亡当時に一定の高齢又は年少、あるいは一定の障害の状態にあることが必要です。
給付の内容
遺族数(受給権者および受給権者と生計を同じくしている受給資格者の数)などに応じて、遺族(補償)年金、遺族特別支給金・遺族特別年金が支給されます。受給権者が2人以上あるときは、その額を等分した額が、それぞれの受給権者が受ける額となります。
(請求に関する時効)
被災労働者が亡くなった日の翌日から5年を経過すると、時効により請求権が消滅しますので、注意が必要です。
遺族(補償)一時金について
支給される場合
(1) 被災労働者の死亡の当時、遺族(補償)年金をうける遺族がいない場合か、(2)遺族(補償)年金の受給権者が最後順位まですべて失権したとき、に、受給権者であった遺族の全員に対して支払われた年金の額および遺族(補償)年金前払い一時金の額の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たない場合に支給されます。
受給権者とは
①〜④ にあげる遺族で、このうち最先順位者が受給権者となります。(②〜③の中では子・父母・孫・祖父母の順です)。同順位者が2名以上いる場合には、それぞれ受給権者となります。なお、子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の身分は、被災労働者死亡当時の身分です。①配偶者、② 労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母、③その他の子・父母・孫・祖父母、④兄弟姉妹
(請求に関する時効)
遺族(補償)年金の場合と同様に、被災労働者が亡くなった日の翌日から5年を経過すると、時効により請求権が消滅しますので、注意が必要です。
◆遺族(補償)年金と遺族(補償)一時金とがありますが、遺族補償年金を受けることの出来る遺族がいない場合等に「遺族(補償)一時金」を支給する事とされており、いずれかの受給を選択する事が出来るわけではありません。
遺族(補償)年金前払い一時金について
労働者の死亡時に、一時的にまとまった資金を必要とする遺族(受給権者)がいる場合に、その費用に充てることが出来るよう配慮し、当該受給権者の請求により給付基礎日額の1000日分を限度として、遺族(補償)年金をまとめて前払いするものです。遺族は1回に限り年金の前払いを受けることが出来ます。また若年停止により年金の支給が停止されている場合でも、前払いを受けることが出来ます。
給付の内容
給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分の中から、希望する額を選択することが出来ます。
前払い一時金が支給されると、遺族(補償)年金は、各月分(1年経ってからの分は年5%の単利で割り引いた額)の合計額が、前払い一時金の額に達するまでの間、支給停止されます。
葬祭料(葬祭給付)について
支給対象は必ずしも遺族とは限りませんが、通常は葬祭を行うにふさわしい遺族となります。
給付の内容
315,000 円に給付基礎日額の30日分を加えた額が、葬祭料(葬祭給付)の額となります。この額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分が支給額となります。
(請求に関する時効)
被災労働者が亡くなった日の翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅しますので注意が必要です。
◆チェック◆
それぞれの給付には様々な条件があり、時効もあります。 まずは、傷病が発生した時に「業務上・通勤途上」だったのかを確認してください。もしや?と思う時には、労働基準監督署等に災害発生状況等の説明をして、「労災」なのかどうかの判断を受けてください。
当会員様は速やかに当事務局へご連絡下さい。必要な対応・手続きを進めていきます。